[現地報告〜自立を考える〜 2]宮川眞一

 現地前回「自立について」で紹介させて頂いた話しの続編です。 私たちのベンガル語教師ディッポック氏の所に、ある日、田舎で私立小学校を運営するムクール氏がやって来ました。ディッポック氏は彼と同郷の出身で小学校では机を並べた友人です。彼はダッカから車で5時間、世界遺産のシュンドルボンの近くバンゲルハット県にあるホルディブニアという村に家族と住んでいます。40代、農作業や外回りで焼けた肌と小柄の痩せ細った身体つき、強く、しかし優しい眼差しが印象的な人でした。

 子供の頃、ムクール氏の家庭は貧しく学校を続けることができませんでした。「そのため社会に出て苦労をしてしました。」「だから同郷の子供達に、そのような思いはさせたくありません。」「そんな気持ちで20年くらい前に私立小学校を始めたのです。」「教育がなければ、悪の道に走ったり、だまされたりで、決して幸せな将来はありません。」「そのことは私が一番知っている。」彼は私の質問にクルナなまりのこもった小さい声で淡々と語り始めました。
 「最初は1人の先生を雇い、自分の2人娘とその友人を教える家庭教師の様なスタイルで始まり、徐々に回りの住民の賛同・協力を得て、今では35-40人の生徒を3人の先生(1人は非常勤)が教えています。」「公立学校もありますが、歩いて片道1時間はかかり、農業の手伝いをしなければならない子供達には遠すぎるのです。」

 ムクール氏は当初、都会から村に帰り学校を始めた頃、農業で生計を立て、自分の私財を投入し学校を建てました。しかし今は、地元の農村開発型NGOでユニオンオルガナイザー(農民の意識化組織化をする仕事)をするかたわら、畑も耕し、オフの日に学校運営に1日を使うという生活です。残念ながら、このNGOは教育分野のプロジェクトは持っておらず、ここからの協力を得ることはできません。
 「今は生徒1人につき月約20タカ(約40円)ぐらい払ってもらっていますが、先生の給料もまかなえず、足りない分は自分が働くNGOでもらった給料(約三分の一)から支払っています。(農村での現金収入は難しい現状があります)」と語る氏の顔に悲惨さは微塵もない。
 ディッポック氏の撮したビデオには一つの教室で三つのクラスに分かれ一生懸命勉強する子供達が映っていました。しかし彼は表舞台に立ってはいませんでした。 「なぜ、そこまで自分の時間や私財を費やし学校を運営するんですか?」 「子供達に幸せになってもらいたいから。でも、やってる自分も、これができて幸せなんですよ。」 「そりゃお金があったら、教室に仕切りを作ったり、もっとよくできるけど、なかなか難しいですね。彼(ディッポック氏)には、いろいろ助けてもらってますけど。」
 教師の一人の月給が約800タカ、ムクール氏のNGOでの給与が2200タカ。確かに彼らの「自立」を見守るのも一つのスタンスでしょう。又、資金のみの無批判な投入には慎重でなければならないと思います。私たちにできる「よい」アプローチは何なのでしょう?この所、資金援助を頼む人との出会いが多かっただけに彼の持つ「自立」への熱い思いに感動した出会いでした。



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