[現地報告〜モバイルチーム始動〜]

 宮川眞一
 「モバイルチーム」(以下MT)などというと私達の世代では怪獣映画に出て来そうなノリですが、今回の相手は病気・患者さんです。もう少し言うなら相手は「生活環境」や「体制」「貧困」なのかもしれません。
 始動に至るまで私達は長い準備期間を必要としました。医薬品の選択・購入、から訪問場所(モバイルクリニック:以下MC)の選択・交渉と整備、住民及び地域指導者への説明会などを経て政局不安定の中、昨年12月やっとスタートにこぎ付けました。
 現在、病院から車で30分以内のMC2箇所で週2-3回朝9時から午後1時終了を目標にMTが訪問しています。将来的には病院に隣接するユニオンと呼ばれる行政区域4箇所をカバーし、各3拠点にMTを派遣する予定です。その中には車は入れず、ボートと徒歩で移動しなければならない地区もあります。
 現在の私の役割はMT全体の管理・指導です。スタッフは、事前に何度も打ち合わせをしましたが今の所、なかなか組織立った動きが取れません。これに患者が絡めば状況はカオス以外の何ものでもありません。患者さんの数は1回40-80名、医師1名のため状況をみて制限をしていますが、立て込んで来た時は私も微力ながら診療に立っています。
 多い訴えは、全身の痛み、めまい、上腹部痛、下痢、熱、皮疹などです。しかし、その多くは、ここ数日のことではなく数ヶ月から数年に渡っています。
未治療の原因は、お金の問題や診療に至るまでの時間がかかること、又、医療者の高圧的態度などの問題、強い動機付けが無いために、そのまま放置しているケースが多い様です。又、病院に行かなくても処方箋無しで薬局から薬が簡単に手に入るため、適当ではない治療を自己判断で続けているケースもあります。
 しかし、やはり一番頭が痛いのは、お金の問題です。郡にはヘルスコンプレックスと呼ばれる公立病院があり若干名の入院も可能です、又、各地域にも公立診療所があって、そこでは検査・治療も薬代も無料なのです。しかし、医者が不定期にしか来ないこと、ニーズに対して様々な面で供給が限られていること、様々な不正などがあり、それらが利用されていない大きな理由の様です。
 お金のある人たちは(お金がなくても必要な場合は)私立の病院やクリニックに行って、又そこが提携している診断センター(検査を専門にする施設)に、高いお金を出して検査を受けた後診察してもらうことが一般的です。貧富の格差は医療分野でも確実に幅を広げて来ています。
 本来、これらの問題は、行政システムや医療者側の姿勢が変わっていかなければ根本的解決には行き着かないでしょう。ただ、それを何もせず待っている訳にもいきません。
 我々のMCは定期的には開くことはできても、全てを無料にできる訳ではありませんし、又それがいいとも考えていません。現在は寄付によって賄われているプロジェクト費から経費を捻出していますが、これらの地域に経済的にも自立した医療共同体の様なものを作っていくのが目標です。そしてそれがモデルとなり行政とタイアップできることを期待しています。
 すでに地方行政側の関心も強く、ポリオの予防接種の共同施行、マラリア治療薬の無料提供が実現しました。
 私達のプロジェクトではMC以外に、すでに2ユニオンでBMWという村に住む既婚女性を2ヶ月間トレーニングして保健師のような仕事を始めてもらっています。又、環境衛生をテーマに予防医学的見地から劇を通じた啓蒙活動も開始しました。
 MCは、これらの活動と有機的にタイアップするものになる予定です。限界は自覚していますが、今動き始めた小さな一歩に期待しつつ働いています。(JOCS会報 2007年1月号 所収)



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